ベイズ統計がつなぐ医療とIT
~ベイズ推測の視覚化ツールを作成

大学の特徴のひとつは、最先端の知とつながる講義を行っていることです。大学の講義は、高校までの授業のように、教えるべきこと/学ぶべきことが厳密に決まっているわけではありません。

大学では、研究者である各教員が、自分の専門分野に関して、簡単に答えの出ない問題について、学生ととともに考える講義を行っています(もちろん、基礎的な知識は適切に教授したうえで!)。

そこで、本学では「未来研究ガイド」を作成して、主に1、2年生や高校生/受験生の方向けに、教員の研究を紹介する動画&ページを作成しています。

今年度は、本学科から井上弘樹准教授が登場しています。井上先生は医師&歯科医師のダブルライセンスの取得者です。さらに、大学病院での勤務医時代には、医療情報部の副部長を務めるなど、医療情報と医療統計のスペシャリストでもあり、本学科でもこれらの講義を担当しています。

今回の「未来研究ガイド」で取り上げられているのは、「ベイズ推測の視覚化ツールの作成に関する研究」です。


統計学は、大きく分けて、頻度論とベイズ統計に分かれます。おそらく、高校までに学習した統計学は、頻度論に基づいたものだったはずです。

頻度論とは、簡単に言えば、研究対象(母集団)について一定の仮説を設定した上で(「A群とB群には差がない」など)、差があるように見えるデータがサンプルから観察された場合に、両者の差がたまたま生じる確率を考え(コイントスをしても必ず50%、表が出るわけではないですよね)、「たまたまではなく、何らかの差があると言えるかどうか」を判定しようとするものです。

たとえば、新しい薬(A群)の効果が従来の薬(B群)よりも優れているかどうかを検証したい場合などは、この頻度論に基づく統計学が用いられます。新しい薬の効果が従来の薬よりも優れているかどうかに関する一定の事実を仮定して、それに基づきデータを判定しようとする(常識的な)方法です。

それに対して、ベイズ統計では、逆転の発想をします。観察されたデータがたまたまなのかを考えようとするのではなく、観察されたデータを一定として(だって実際に観察されたのだから!)、逆に一定の客観的な事実(確率分布)を仮定せず分からないままにしておきます。そして、観察されたデータがどのような母集団から得られる確率が高いのかを判定しようとします。

たとえば、データのサイズが限られており一定の客観的な事実が想定しづらいなかでも最適な決定を下さなければならない場面では、ベイズ統計と相性が良いと言えます。具体的には、医療検査を実施する場合や最適な治療方法を選択する場合などです。

医療の現場では、様々ある診断方法や治療方法の中から、患者様に一番適切なものを選択しなければいけません。そのような医療における意思決定は、何らかの理由や根拠が必要となり、医師が導き出す根拠のもととして「ベイズ推測」という統計学が用いられることがあります。それを一般の臨床家や学生が簡単に操作するツールが作れないかと思い、この研究を始めました。

ベイズ統計は、18世紀に始まり、19世紀には頻度論の学者たちから激しい批判を浴びて表舞台から消えますが、1950年代頃から再び注目を集めるようになります。

そして、20世紀末以降、ベイズ統計は急速な広がりを見せています。ベイズ統計学のネックであった乱数計算の複雑さをコンピューターの高速化が低減させ、そして、ベイズ統計学は機械学習との相性が良いためです。

とはいえ、上記の説明でも「分かったような、分からないような」というのが実感ではないでしょうか。多くの臨床家(そして学生!)にとっても、ベイズ統計に慣れ親しみのあるものとは言いがたく、そこで、井上先生の視覚化ツールが有益となるのです!

ツールやアプリ開発を通して、頭で構想したことがどのように実体化されるのか、道筋を立てることができるようになると思います。また、ユーザーがツールを操作することで、ベイズ統計学に興味を持ってもらい、ベイズ統計学に関する成書をひも解く機会と動機が増えることが考えられます。


診療情報管理士や医療事務職を目指す学生は、井上先生から臨床医学なども学ぶことになります。常勤の教員である医師や歯科医師、看護師から医学・医療の知識がとことん学べるのも、大学ならではの特徴です!

■未来研究ガイド:医療情報管理学科・井上弘樹准教授「ベイズ推測の視覚化ツールの作成に関する研究」
https://www.nuhw.ac.jp/guide/detail.php?no=13

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